高松高等裁判所 昭和51年(行コ)7号 判決 1978年4月26日
香川県観音寺市観音寺町字三反畑
控訴人
観音寺税務署長
藤沢利文
右指定代理人検事
山浦征雄
同
法務事務官 森池裕一郎
右指定代理人
国税訟務官
加地淳二
同
法務事務官 三船隆
同
国税訟務官 七条英夫
同
大蔵事務官 小野義孝
同
大蔵事務官 中村隆保
同県三豊郡豊浜町姫浜五九〇番地の一
被控訴人
井下弘
右当事者間の課税処分等取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
原判決を左のとおり変更する。
控訴人が昭和四六年七月八日付で被控訴人の昭和四五年分の所得税についてなした更正処分のうち所得金額一〇七万九三三五円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち右所得金額に対応する額を超える部分はいずれもこれを取り消す。
被控訴人のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審を通じこれを三分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求めた。
被控訴人は当審における本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面をも提出しない。
当事者双方の事実上の主張は次のとおり挿入、削除、訂正するほか原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一、原判決三枚目裏一行目から同一二枚目裏末行迄の記載を次のとおり訂正する。
(一) 売上金額 四四九万一〇二三円
右売上金額は、1被控訴人が昭和四五年中に、取引金融機関に入金した預金総額三六七万二〇六三円、2売上金のうち金融機関に入金せず現金で収入したのち諸支払に当てたと認められる二四八万一八六二円及び売掛金二一万七〇〇〇円を合計した六三七万〇九二五円から、3右預金中事業収入以外の入金額一八〇万五〇〇二円及び右現金収入中諸支払に当てたと認められる金額のうち後記当座預金支出との重複が考えられるもの二万円を差し引き、4さらに前年からの繰越金五万四九〇〇円を差し引いた金四四九万一〇二三円を売上高と推計した。
1 金融機関への入金額(三六七万二〇六三円)
(1) 被控訴人名義預金(三六六万三四八三円)
ア 三三四万九七〇〇円 当座預金 観音寺信用金庫豊浜支店
イ 一七八三円 普通預金 同右
ウ 二五万円 定期預金 同右
昭和四五年中の観音寺信用金庫豊浜支店(以下豊浜支店という)の定期預金は総計四〇万円であるが、これから一五万円(当座預金から振替入金された金額)を差し引いた残額二五万円を新規定期預金とした。
エ 一万八〇〇〇円 納税貯金 豊浜農業協同組合
オ 四万四〇〇〇円 定期積金 同右
(2) 訴外井下スミ子名義預金(八五八〇円)
被控訴人の妻井下スミ子名義で前記豊浜農業協同組合(以下豊浜農協という)へ八五八〇円(定期積立)入金されているが、同人には収入源がないところからして、右預金は被控訴人の売上金から入金されているものと認めた。
2 売上金のうち金融機関に入金せず現金で収入したのち諸支払に当てられたと認められるもの(二四八万一八六二円)及び売掛金(二一万七〇〇〇円)
(1) 仕入代金(二四万三一六九円)
被控訴人は昭和四五年中に取引先から合計二五五万八四四五円の材料(木材、サッシ、ベニヤ類、金物類、ガラス類)を仕入れているが、右仕入代金のうち次の二四万三一六九円については被控訴人の預金にこれに該当する出金額がないので、手持売上金から支出したと認めた。
被控訴人は合田安勝ガラス店(以下合田ガラス店という)から三二万八八四一円の仕入をしているが、そのうち小切手で支払ったのは一八万円のほか四月一五日に支払った二万三〇〇〇円の合計二〇万三〇〇〇円であるから、現金で支払ったのは残額一二万五八四一円である。すなわち、甲第一号証には四月一五日に合田ガラス店に五万円を小切手で支払った旨の記載があるが、右小切手は小切手番号一三七の額面二万三〇〇〇円の小切手(乙第三七号証)のことであり、右小切手金は翌一六日当座預金から支払われている(同第一号証の二)のであって、
前記五万円全額が小切手で支払われたものではない。
その他 一万三五二〇円 化粧板、網戸、レール、簾戸の簾
(2) 一般経費(二八万〇七〇一円)
一般経費四二万五八七四円のうち、明らかに被控訴人の当座預金から支払われたと認められる通信費一万八一一三円、消耗品費のうちの二万六七四〇円及び出金を伴わない減価償却費(建物以外)一〇万〇三二〇円を除く次の経費については、被控訴人の預金にこれに該当する出金額がないので、手持売上金から支出したものと認めた。
消耗品費の総額は、一七万八六八〇円であるが、そのうち次の一五万一九四〇円を被控訴人が事業収入から支出したものである。
甲第一号証の二月三日の欄一八〇円、同(神木電ドル其の他)一万二六〇〇円、同月八日の欄(ガソリン)三四一〇円、三月五日の欄(消火器)八〇〇〇円、同月二四日の欄(ガソリン、オイル、ヒューズ)一三〇〇円、四月一七日の欄(エンドミル)四六〇円、五月二日の欄(ガソリン)二七五〇円、六月六日の欄(ガソリン)三一三〇円、七月五日の欄(大池機工)四七五〇円、同月二九日の欄(目立)一三〇〇円、九月五日の欄(ガソリン)九五〇〇円、一〇月一六日の欄(大池)一万八三八〇円、同(道具)三五〇円、一一月六日の欄(藤村工具)七五〇円、同月一〇日の欄(神木)一万三〇〇〇円、同(神木)二九〇〇円、同(ガソリン)三六三〇円、同月三〇日の欄(目立)一五〇〇円、一二月一九日の欄(大池)二万九〇〇〇円、同(ガソリン)三五〇〇円、同月三〇日の欄(神木)三万一〇〇〇円、同月三一日の欄(藤村工具)五五〇円、計一五万一九四〇円
雑費 六一二〇円
雑費は次の六一二〇円である。
甲第一号証の四月二七日の欄(建具新聞)二四〇〇円、六月三〇日の欄(商工会費)七二〇円、九月一六日の欄(組合費)一七〇〇円、甲第一一号証の一三〇〇円、計六一二〇円
(3) 地代家賃(二万七一四六円)
被控訴人が昭和四五年中支払った地代家賃(住家用、事業用の両者を含む)二万七一四六円は、被控訴人の預金にこれに該当する出金がないので、手持売上金から支出したものと認めた。
(4) 外注費(一二万〇四〇〇円)
外注費の総額は被控訴人の計算によると三二万六九〇〇円であるが、そのうち一二万〇四〇〇円については、被控訴人の預金にこれに該当する出金がないので、手持売上金から支出したと認めた。
(5) 借入金返済資金(九六万〇四一六円)
被控訴人は昭和四五年中に豊浜支店ほかへ借入金の返済として元利合計一六七万二四九二円を支出しているが、このうち被控訴人の当座預金から出金したと認められる四四万三九九二円、預入れ定期預金で相殺された二一万七三五三円及び農協積金から支払われた五万〇七三一円を差し引いた左記のものについては、手持売上金から支出したものと認められる。
右住宅ローン及び国民金融公庫への返済金は合計六七万八八九九円であるが、四三万六三四七円は当座預金から支払われているので、これを差し引いた二四万二五五二円が手持売上金から支払われたものと認めた。
観音寺信用金庫豊浜支店 七一万五三八三円
豊浜支店への返済金は合計九四万〇三八一円であるが、二一万七三五三円は定期預金で相殺されたものであり、七六四五円は当座預金から支払われているので、これを差し引いた七一万五三八三円が手持売上金から支払われたものと認めた。
豊浜農業協同組合 二四八一円
豊浜農協への返済金は五万三二一二円であるが、五万〇七三一円は農協積金から支払われているので、これを差し引いた二四八一円が手持売上金から支払われたものと認めた。
(6) 生計費(八一万〇六〇〇円)
昭和四五年中における被控訴人家族(四名)の生計費として次の計算方法により算出した金八一万〇六〇〇円を認めたが、被控訴人の預金中には生計費に該当する出金額がないので、手持売上金から支出したと認めた。
被控訴人家族四名(被控訴人(昭和二年四月一三日生)、妻スミ子(昭和六年六月一四日生)、長男満夫(昭和三三年三月七日生)、二男健次(昭和三九年一二月一五日生))の年間生計費は、総理府統計局の「家計費調査報告」の「昭和四五年の家計の結果」資料の昭和四五年平均一世帯当り一か月間の家計費(四国地方)六万七五五〇円に一二月を乗じて計算した金額八一万〇六〇〇円である。なお、被控訴人の家族構成は、年少者二名が含まれているので、同資料の標準家族数三・七三人相当とみなして算出した。
(7) 売掛金(二一万七〇〇〇円)
被控訴人の訴外株式会社東工務店に対する昭和四五年期末の売掛金二四万五〇〇〇円から同年期首の売掛金二万八〇〇〇円を差し引いた二一万七〇〇〇円を当年売掛金と認めた。
(8) 生命保険料(二万九七〇〇円)
被控訴人は昭和三九年一二月三〇日日本生命保険相互会社高松支社と、被控訴人を契約者、被控訴人の妻井下スミ子を被保険者とする災害保障特約付保険契約を締結し、同日以降現在まで月掛方式により継続して保険料の支払を行っている。昭和四五年分の保険料掛金については、被控訴人は月額二八六〇円から配当金月額三八五円を控除した月額二四七五円を支払っている(昭和四五年度課税所得控除月払保険料払込証明書、乙第三八号証)が、被控訴人の当座預金(乙第一号証の一ないし五)には、右金額の支払の記載がないので現金で支払ったものといえるし、その際の現金は売上金からのそれをもって充当したと考えざるを得ないから、保険金掛金の年額二万九七〇〇円(前記月額の一二か月分)は被控訴人の売上金を構成する。
(9) 日雇保険料及び国民健康保険料(九七三〇円)
被控訴人は、昭和四五年分の事業所得の確定申告書(乙第三九号証の一、二)に所得金額から差引かれる金額として日雇保険料三一二〇円、国民健康保険料六六一〇円、国民年金掛金九〇〇〇円を社会保険料控除額として所得金額から控除して申告しているが、右金額のうち日雇保険料三一二〇円、国民健康保険料六六一〇円については、被控訴人の当座預金(乙第一号証の一ないし五)からの支払の記載がなく、右(8)と同様現金で支払ったこととなるので、その合計額九七三〇円は被控訴人の売上金を構成する。
3 1及び2から差し引く金額
被控訴人の昭和四五年中における入金総額は、前記1及び2の合計額六三七万〇九二五円であるが、この中には次のとおり事業収入金以外の入金額一八〇万五〇〇二円が含まれており、また諸支払に当てられたと認められる金額のうち当座預金払との重複が考えられる二万円があるので、これを差し引くこととする。
(1) 事業収入金以外の入金額(一八〇万五〇〇二円)
<1> 豊浜支店からの住宅ローン借入金 一四〇万円
<2> 当座預金中売上金を入金したものではないもの
被控訴人が訴外福田知由、同今川友良と共同で丸福木材有限会社から材料を仕入れた際、被控訴人が右訴外人らの仕入代金を立替えているため、これが入金されたもの 四〇万五〇〇二円
(2) 諸支払に当てられた金額中当座預金払との重複が考えられるもの(二万円)
一般経費のうち 二万円
4 前年からの繰越金(五万四九〇〇円)
被控訴人の現金期首在高は一一万七八〇〇円であるが、現金期末在高は次のとおり、期末在高五万円のほかに一万二九〇〇円を加算すべきであるから、繰越金は一一万七八〇〇円から六万二九〇〇円を差し引いた五万四九〇〇円である。すなわち、被控訴人は、訴外日本建設株式会社に硝子戸二枚を納入し、昭和四五年一二月三一日にその代金一万二九〇〇円を小切手(乙第三二号証)で受領したが、被控訴人は、売上代金を小切手で受領した場合には、右受領日ではなく、右小切手を金融機関へ預入れもしくは現金化した時点で売上に計上することにしているので右受領日には売上として日々帳(甲第一号証)に記載していない旨供述して、右一万二九〇〇円を現金期末在高に加算していない。しかし、小切手は、簿記会計上現金と見倣されるのであるから、小切手受領日をもって売上に計上されるべきであり、結局右小切手は、現金期末在高に加算しなければならない。なお、右一万二九〇〇円を現金期末在高に加算しないとすれば、右金額を売掛金として加算計上すべきである。
5 以上により、被控訴人の昭和四五年中における売上金額は、前記1及び2の合計額から、3及び4の合計額を差し引いた四四九万一〇二三円となる。
(二) 販売原価(二三一万六一二五円)
1 販売原価は、昭和四五年分期首在庫高七八万七六八〇円に、同年中における次の仕入金額の合計額二五五万八四四五円を加え、期末在庫高一〇三万円を差し引いた金額二三一万六一二五円と認めた。
2 なお、被控訴人は丸福木材有限会社(以下丸福木材という)から被控訴人が仕入れた木材の代金債務二〇万三〇〇〇円を販売原価に計上すべきであると主張するが、右代金債務は次のとおり、昭和四四年一二月二三日に仕入代金債務として確定しているから、期首在庫高七八万七六八〇円に含まれていると認定すべきものである。すなわち、丸福木材と被控訴人間の仕入契約は昭和四四年一二月二三日に締結されたものであるが、青色申告法人として会計の専門家である税理士の指導の下に記帳している丸福木材が、契約のみによって売上を計上するとすれば、引渡のされていない棚卸資産について売上を架空に計上する、換言すれば粉飾決算をすることになるのであるから、とうていあり得ないことである。したがって、右仕入代金債務については、昭和四四年一二月二三日に仕入物品の引渡しがされたので丸福木材の売上に計上され、その時に右債務が確定し、右代金の回収として翌四五年一月及び二月に手形を受領したというべきである。
(三) 一般経費(四二万五八七四円)
一般経費のうち減価償却費(建物以外)を除く経費は被控訴人の計算により、減価償却費(建物以外)は控訴人の計算により、合計四二万五八七四円となる。
右減価償却費(建物以外)の計算は、左のとおり耐用年数一二年定額法を適用したものである。
(四) 特別経費(四四万〇八五九円)
特別経費は、1借入金利子五万七九七四円、2建物の減価償却費四万〇四五五円、3地代一万五五三〇円及び4外注費三二万六九〇〇円の合計額四四万〇八五九円である。
1 借入金利子(五万七九七四円)
被控訴人が昭和四五年中に支払った借入金利子は、左のとおりである。
2 建物の減価償却費(四万〇四五五円)
建物の減価償却費は、耐用年数三五年、定額法を適用すると次のとおりとなる。
3 地代家賃(一万五五三〇円)
地代家賃は香川県三豊郡豊浜町大久保克己に対する昭和四五年分借地料一万五五三〇円である。
4 外注費(三二万六九〇〇円)
外注費は、被控訴人の計算した金三二万六九〇〇円を認めた。
(五) 以上、被控訴人の事業所得を計算すると左のとおり一三〇万八一六五円となる。
(売上金額) (販売原価) (一般経費) (特別経費) (事業所得金額)
四四九万一〇二三円-(二三一万六一二五円+四二万五八七四円+四四万〇八五九円)=一三〇万八一六五円
二、原判決一四枚目表四行目の「入金額」の次に「及びウの入金額四〇万円中一五万円が当座預金からの振替入金であること」と挿入し、六行目の「であり、」から八行目の「控除すべき」迄を削除する。
三、同一四枚目裏九行目の「のうち」から一〇行目迄の記載を「一二万〇四〇〇円を現金で支払ったことは認める。」と訂正する。
四、原判決一六枚目裏二行目と三行目の間に次の記載を挿入する。
第六 控訴人の結論
以上のとおりであるから被控訴人の事業所得金額一三〇万八一六五円の範囲内においてなした本件更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
第七 控訴人の原判決の法令違背の主張
原判決は、控訴人が更正処分で認定した被控訴人の昭和四五年分の事業所得金額一一九万九七一二円は右原判決の認定額一〇〇万八九七五円を超えるとの理由で控訴人がした被控訴人の同年分事業所得一一九万九七一二円、税額六万一七〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税三〇〇〇円とする賦課処分のすべてを違法として右処分を全部取り消している。しかし、原判決には次のとおり法令違背がある。すなわち、賦課関係の税務訴訟は、課税標準の内容の違法につき争訟するが、それは、民事訴訟における債務不存在確認訴訟に類似するものとしてとらえられる。従って右税務訴訟の提起者である被控訴人(納税義務者)が右訴訟において求めているのは、課税庁によって認定賦課された租税債務の不存在の確認であり、右訴訟の争点は課税標準(又は税額)の多寡である。即ち控訴人がした処分が違法であるか否かは、右課税標準(又は税額)が客観的に存在するか否かにかかっており、右処分により認定賦課された課税標準(又は税額)が客観的に存在することが右訴訟において認められれば、右処分は適法として請求は棄却され、逆に右課税標準(又は税額)が右訴訟において認定された客観的な課税標準(又は税額)よりも上回れば、右処分は超過する限度で違法とされ、その超過する部分のみが取り消されるのである。以上のとおりであるから、原判決が右超過する部分のみを違法として取り消すことなくその全てを取り消したのは、法令の解釈適用を誤ったものといわねばならない。
ちなみに、本件課税処分を全部取り消した原判決が確定すれば、もはや今日では法的に新たな課税処分は一切不可能であり、そうなれば原判決でその存在が認定された事業所得の部分までもそれが課税を免れる結果となる。このことは、課税の適正、公平を著しく失する結果をもたらすといえる。
証拠の関係は、控訴代理人において乙第三七号証、第三八号証、第三九号証の一、二を提出したほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
理由
一、被控訴人主張の請求原因一記載の事実は当事者間に争いがない。
二、控訴人の抗弁に対する被控訴人の本案前の主張及び抗弁中推計課税の必要性(抗弁一)についての当裁判所の認定判断は原判決一七枚目裏七行目から同二〇枚目裏五行目迄の記載と同一である(但し、原判決二〇枚目表七行目の「本人尋問の結果」の次に「により」を挿入する。)からこれを引用する。
三、そこで控訴人主張の推計課税の詳細(抗弁二)について判断する。
(一) 売上金額(四四八万九七二三円)
1 売上金中金融機関への入金額(三六七万二〇六三円)
被控訴人名義による各金融機関への預金等の入金額が控訴人主張のとおりであること及び豊浜支店(観音寺信用金庫豊浜支店)への定期預金四〇万円中一五万円が当座預金から振替入金されたものであることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第六号証、原審証人富吉右一の証言、原審における被控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、昭和四五年中の被控訴人の妻井下スミ子名義の豊浜農協定期積立預金の入金が八五八〇円であること、被控訴人の家族は被控訴人及び妻スミ子と年少の子供二人であり、被控訴人の営む建具業による収入で生計を立てており、他によるべき収入源がないことが認められる。
したがって以上の被控訴人名義及び井下スミ子名義の各預金等の入金(但し、豊浜支店への定期預金入金額は入金総額四〇万円から当座預金振替入金分一五万円を差し引いた二五万円である。)は被控訴人の事業収入によってなされたものと推認できる。
被控訴人は豊浜支店当座預金入金中には住宅ローン一四〇万円のうちの六八万八七五〇円が含まれているからこれを差し引くべきであると主張するが、後記(一)3(1)のとおり事業収入以外の入金として差引くべき金員に右住宅ローン一四〇万円を全額計上しているから、そのうちの一部である六八万八七五〇円は売上金からの入金ではなくてもここでは差し引かない。
2 売上金中現金による収入(金融機関の預金に無関係のもの)及び売掛金(二六九万七五六二円)
(1) 仕入代金の支払いにあてられたもの(二四万三一六九円)
前記抗弁一について認定した事実と前掲甲第一号証、乙第一及び第一四号証の各一ないし五、第一七ないし第二〇号証(以上いずれも原判決中の引用部分に記載)、原審証人大西敬の証言により真正に成立したものと認められる同第二一号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同第三七号証、原審証人大西敬の証言、原審における被控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すると、被控訴人は昭和四五年中に、森材木店から九〇〇〇円の仕入を現金でなし、有限会社三宅建材店から六六〇〇円の仕入をなし、豊浜支店の当座預金から支払った五四〇〇円を除いた一二〇〇円を現金で支払い、田片建材店から三万九二五〇円の仕入をなし豊浜支店の当座預金から支払った四二〇〇円、昭和四六年二月一〇日に支払った一万円の計一万四二〇〇円を除いた二万五〇五〇円を現金で支払い、石村金物株式会社から六万六八六〇円の仕入をなし、昭和四五年中に支払った六万五七〇〇円中豊浜支店の当座預金から支払った四万〇六〇〇円を除いた二万五一〇〇円を現金で支払い、有限会社高橋金物から昭和四五年中二万五八一七円の仕入をし、その仕入代金の一部二万二九九八円と昭和四四年中の仕入代金の一部二四六六円の合計二万五四六四円を昭和四五年中に現金で支払い、香川県西部木工同業組合から四万二五七四円の仕入をなし、消耗品四二〇〇円、雑費一三〇〇円とあわせて額面三万〇〇三〇円の小切手で支払った二万四五三〇円を除いた一万八〇四四円を現金で支払い、合田ガラス店から三二万八八四一円の仕入をし、その仕入代金の一部一二万五八四一円を現金で支払い(甲第一号証記載の二月六日の仕入代金一〇万円、九月六日の仕入代金五万円、一一月二二日の仕入代金三万円はいずれも仕入代金と同額の小切手で支払われているが、四月一五日の仕入代金五万円はその支払いのために小切手番号一三七の額面二万三〇〇〇円の小切手が振出され、右小切手金は同月一六日当座預金から支払われているから、現金で支払われたのは仕入代金三二万八八四一円から右各小切手金の合計二〇万三〇〇〇円を差し引いた残金一二万五八四一円となる。)、その他控訴人主張のとおり一万三五二〇円の仕入を現金でなしたことが認められ、これらの現金支出は金融機関の預金等とは無関係の被控訴人の事業収入によるものと推認できる。
但し、田片建材店からの現金仕入分二万五〇五〇円については控訴人が主張している二万五〇〇〇円の限度で計上する。
(2) 一般経費の支払いにあてられたもの(二七万九四〇一円)
前記抗弁一について認定した事実と前掲甲第一号証、乙第一号証の一ないし五、成立に争いのない甲第二号証、乙第二二号証、原審における被控訴人本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一一、第一二号証、原審における被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人は昭和四五年中に、租税公課を二万四八四〇円(甲第一号証には三〇〇〇円の記載があるにすぎないが、そのすべてについて正確に記載されたものではないから、乙第二二号証の記載によった。)を現金で支出し、水道光熱費として五万〇七五一円(甲第一号証には四万〇五六一円の記載があるが、右記載には一一月分が脱漏しており、そのすべてについて正確に記載されたものではないから、乙第二二号証の記載によった。)を現金で支出し、接待交際費として二万一〇〇〇円(甲第一号証には中元五五〇〇円の記載があるにすぎないが、そのすべてについて正確に記載されたものではないから、乙第二二号証の記載によった。)を現金で支出し、損害保険料として七〇五〇円を現金で支出し、修繕費として一万九〇〇〇円(甲第一号証には合計一万四一五〇円の記載があるにすぎないが、そのすべてについて正確に記載されたものではないから、乙第二二号証の記載によった。)を現金で支出し、消耗品費として一七万八六八〇円(控訴人主張の計一五万一九四〇円と甲第一号証に記載の四月一二日一万二〇〇〇円、同月二八日一万〇五四〇円、五月一〇日四二〇〇円計二万六七四〇円の合計額)を支出し、その一部二万六七四〇円を小切手で支払い(内四二〇〇円は雑費一三〇〇円、仕入二万四五三〇円とあわせて三万〇〇三〇円の小切手で支払った。)、これを除く一五万一九四〇円を現金で支払い、雑費として控訴人主張のとおり六一二〇円を支出し、前記のとおり他の支払いとあわせて三万〇〇三〇円の小切手で支払った一三〇〇円を差し引いた四八二〇円を現金で支出したことが認められ、右現金支出は損害保険料七〇五〇円を除き金融機関の預金等とは無関係の事業収入によるものと推認でき、右損害保険料は住宅ローン一四〇万円の内から支払われたものと認められるが、右住宅ローンは後記(一)3(1)のとおり事業収入以外の入金として差し引くのでここでは差し引かない。
なお、被控訴人は一般経費中三万〇〇三〇円及び一万九四〇〇円は小切手で支払ったと主張するが、右三万〇〇三〇円の小切手は前記のとおり消耗品費四二〇〇円、雑費一三〇〇円のほか仕入代金二万四五三〇円とあわせてその支払いにあてられたもので、全額一般経費の支払いにあてられたものではなく、そして右消耗品費四二〇〇円及び雑費一三〇〇円は現金支出として計上できないこと前記のとおりであるが、右仕入代金二万四五三〇円も前記(一)2(1)のとおり現金支出として計上していないし、また、右一万九四〇〇円の小切手は後記(一)2(4)に認定のとおり外注費の支払いにあてられたもので、且つ現金支出として計上していない。
(3) 地代家賃の支払いにあてられたもの(二万七一四六円)
前記抗弁一について認定した事実と前掲甲第一号証、乙第一号証の一ないし五、原審証人大西敬の証言により真正に成立したものと認められる乙第二四号証、原本の存在については当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨により原本が真正に成立したものと認められる乙第二五号証によれば、被控訴人は昭和四五年中に昭和四四年分地代一万一六一六円及び昭和四五年分地代一万五五三〇円の合計二万七一四六円を現金で支払ったことが認められ、右支出は金融機関の預金等とは無関係の被控訴人の事業収入によるものと推認できる。
(4) 外注費の支払いにあてられたもの(一二万〇四〇〇円)
前記抗弁一について認定した事実と前掲甲第一号証、乙第一号証の一ないし五、乙第二二号証、原審証人石川武久の証言により真正に成立したものと認められる甲第一〇号証、原審における被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人は外注費として三二万六九〇〇円を支出し、内甲第一号証記載の二月六日三万二八〇〇円、三月一四日二万円、四月一一日五万七八〇〇円、四月一二日一万六五〇〇円、一〇月一六日三万円、一二月一〇日三万円、一二月二八日一万九四〇〇円(石川表具店へ外注した襖代金)を小切手で支払い、残金一二万〇四〇〇円を現金で支払ったことが認められ、右現金支出は金融機関の預金等とは無関係の被控訴人の事業収入によるものと推認できる。
(5) 借入金返済資金にあてられたもの(九六万〇四一六円)
被控訴人が豊浜農協手形貸付金について元金五万円利息三二一二円計五万三二一二円を弁済し、内二四八一円を現金で支払ったことは当事者間に争いがなく、前記抗弁一について認定した事実と前掲甲第一、第二号証、乙第一号証の一ないし五、成立に争いのない甲第三号証の一、二、乙第七、第八号証の各一、二、第九号証の一ないし三、原審における被控訴人本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一三号証、原審における被控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すると、被控訴人は昭和四五年中に、豊浜支店からの住宅ローン借入金一四〇万円について元金二四万円利息一一万〇〇九五円計三五万〇〇九五円を弁済し、国民金融公庫からの借入金一〇〇万円について元金二九万五〇〇〇円、利息三万三八〇四円計三二万八八〇四円を弁済し、豊浜支店貸付金について、元金九二万円利息二万〇三八一円(乙第九号証の二記載の四二〇〇円、同号証の三記載の六六二四円中昭和四五年一月一日から同月一五日迄日割計算による一〇六八円、六四八二円、三一三四円、四九九八円及び三四九五円中同年一二月一八日から同月二四日迄の分二三三円と同月二四日から同月三一日迄日割計算による二六六円の合計額)計九四万〇三八一円を弁済したことが認められ、右豊浜支店貸付金の弁済金中二一万七三五三円は定期預金と相殺されたものであり、同弁済金中七六四五円は豊浜支店の当座預金から支払われ、住宅ローン借入金及び国民金融公庫からの借入金の弁済金中四三万六三四七円も右当座預金から支払われたことは控訴人の自認するところである。したがって豊浜支店貸付金の弁済金九四万〇三八一円中現金で支払われたのはこれから前記二一万七三五三円及び七六四五円を差し引いた七一万五三八三円となり、住宅ローン借入金及び国民金融公庫からの借入金の弁済金六七万八八九九円中現金で支払われたのはこれから前記四三万六三四七円を差し引いた二四万二五五二円となる。
被控訴人は住宅ローン借入金及び国民金融公庫からの借入金は全額当座預金から支払われたと主張するがこれを認めるに足りる証拠はない。
なお、後記(一)3(1)に認定のとおり豊浜支店貸付金の弁済金中七〇万四二〇〇円は住宅ローン借入金一四〇万円から支払われたものであるが、右借入金は事業収入以外の入金として売上金から差し引くので、右七〇万四二〇〇円はここでは控除しない。
そして、右豊浜支店貸付金の弁済金中の右七〇万四二〇〇円以外の現金で各金融機関に支払われた弁済金はいずれも金融機関の預金等とは無関係の被控訴人の事業収入によるものと推認できる。
(6) 生計費の支払いにあてられたもの(八一万〇六〇〇円)
被控訴人家族は被控訴人、その妻及び年少の子供二人であり、被控訴人の営む建具業による収入によって生計を立てており他によるべき収入源はなかったこと、被控訴人及び妻スミ子名義の預金額は前記(一)1に認定したとおりであり、また、被控訴人が昭和四三年頃作業場を、昭和四四年頃住宅をそれぞれ建築したことは前記抗弁一について認定した(原判決中の引用部分に記載された)とおりであり、これらの事実と成立に争いのない乙第一一号証の一ないし三、原審証人富吉右一の証言並びに原審における被控訴人本人尋問の結果を綜合すると、被控訴人及びその家族の生活程度が少くとも四国における平均的な生計費を支出し得る水準に達し且つこれを支出していたことが認められるから、被控訴人及びその家族の生計費を総理府統計局の「家計調査報告書」における標準家族三・七三人の一世帯当りの消費支出によって算定しても控え目な計算方法として差し支えないものと考えられる。そして昭和四五年一二月の右「家計調査報告書」によれば右標準家族の一か月の消費支出は六万七五五〇円であるから、年額八一万〇六〇〇円(六万七五五〇円の一二か月分)となり、右支出は現金でなされ、被控訴人の金融機関の預金等とは無関係の事業収入によるものと推認できる。
被控訴人は右算定方法が合理的でないと主張するが、他により合理的な算定方法の可能な資料もないことからすると、右生計費の算定方法は推計課税における所得額算定のために行う算定方法としては合理的な算定方法というべきである。
(7) 売掛金債権として残存したもの(二一万七〇〇〇円)
原審証人大西敬の証言により真正に成立したものと認められる乙第一二号証、原審証人大西敬の証言によると、被控訴人の昭和四五年分の売掛金は株式会社東工務店に対する同年期末の売掛金二四万五〇〇〇円から同年期首の売掛金二万八〇〇〇円を差し引いた二一万七〇〇〇円であることが認められる。
(8) 生命保険料の支払いにあてられたもの(二万九七〇〇円)
前記抗弁一について認定した事実と前掲乙第一号証の一ないし五、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同第三八号証及び第三九号証の二によれば、被控訴人は日本生命保険相互会社と災害保障特約付保険契約を締結し、継続して保険料の支払いをしてきたが、昭和四五年中に支払った保険料は二万九七〇〇円(月額掛金二八六〇円から配当月額三八五円を差し引いた二四七五円の一二か月分)であり、右保険料は被控訴人の当座預金から支払われていないので現金で支払ったものと認められ、右支出は被控訴人の金融機関の預金等とは無関係の事業収入によるものと推認できる。
(9) 日雇保険料及び国民健康保険料の支払いにあてられたもの(九七三〇円)
前記抗弁一について認定した事実と前掲乙第一号証の一ないし五、第三九号証の二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同第三九号証の一によれば被控訴人は日雇保険料三一二〇円及び国民健康保険料六六一〇円計九七三〇円を前同様いずれも現金で支払ったことが認められ、右支出は被控訴人の金融機関の預金等とは無関係の事業収入によるものと推認できる。
3 前記1及び2から差し引くべき金額(一八二万五〇〇二円)
(1) 事業収入金以外の入金(一八〇万五〇〇二円)
前記(一)2(2)(5)に認定した事実と前掲甲第二号証、乙第一号証の一、第七、第九号証の各一原審における被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人は昭和四五年一月二四日豊浜支店から住宅ローン一四〇万円を借り受け、内七〇万四二〇〇円を豊浜支店貸付金の元利金支払いに当て、内七〇五〇円を損害保険料の支払いに当て、残金六八万八七五〇円を豊浜支店の当座預金に入金したことが認められ、また、前掲乙第一号証の二、三、成立に争いのない甲第四号証の一ないし三、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第三五号証によれば豊浜支店の当座預金に入金された控訴人主張の計四〇万五〇〇二円は丸福木材有限会社から被控訴人外二名が共同で仕入れた材木の代金中他の二名の仕入分について被控訴人が立替支払したため他の二名が被控訴人の豊浜支店当座預金に振込んだものであることが認められる。
したがって右入金の合計一八〇万五〇〇二円は前記1及び2から差し引くべき事業収入以外の入金として計上する。
(2) 現金中当座預金との重複が考えられるもの(二万円)
前掲甲第一号証、乙第一号証の二、及び弁論の全趣旨によれば、三月二三日に一般経費として支出した二万円が豊浜支店の当座預金から支払われていることが認められ、前記(一)2(2)に認定した事実によると右支出は現金で支出した一般経費との重複が考えられるので1及び2から差し引くべき金額として計上する。
4 差し引くべき前年度からの繰越金(五万四九〇〇円)
原本の存在及び成立について争いのない乙第二八号証、原本の存在について争いがなく原審証人富吉右一の証言により原本が真正に成立したものと認められる同第二九号証、原審における被控訴人本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる同第三二号証の一ないし三、原審証人富吉右一の証言、原審における被控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると、被控訴人は審査請求時、現金期首在高が一一万七八〇〇円、同期末在高が五万円である旨申立てたこと、被控訴人が昭和四五年一二月三一日日本建設株式会社に納入した硝子戸二枚の代金一万二九〇〇円を小切手で受領したこと、前記現金期末在高五万円中には右小切手金を含めて計上していないことが認められる。そして小切手は会計上その交付を受けた時に入金があったものと見做され、これを金融機関へ預入れもしくは現実に現金化した時に入金があったものと見做されるわけではないから、前記一万二九〇〇円の小切手が現実には昭和四六年一月以降に現金化され又は金融機関に預入れられたとしてもこれを昭和四五年中の現金期末在高に計上すべきである。
したがって現金期末在高は前記五万円に一万二九〇〇円を加算した六万二九〇〇円であるから、売上金の算定に際し差し引くべき前年度からの繰越金は現金期首在高一一万七八〇〇円から同期末在高六万二九〇〇円を差し引いた五万四九〇〇円となる。
(二) 販売原価(二五四万三六五五円)
1 被控訴人が昭和四五年中に有限会社尾幡亀茂商店から二七万八六五五円の仕入をしたことは当事者間に争いがなく、同じく森材木店から九〇〇〇円、三宅建材店から六六〇〇円、田片建材店から三万九二五〇円、石村金物から六万六八六〇円、高橋金物から二万五八一七円、香川県西部木工同業組合から四万二五七四円、合田ガラス店から三二万八八四一円、その他一万三五二〇円の各仕入をしたことは前記(一)2(1)に認定のとおりである。そして、前掲甲第一号証、乙第一三、第一五、第二二号証、原審における被控訴人本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一四号証の一、二、原審証人泉本中の証言により真正に成立したものと認められる乙第二三号証、原審における被控訴人本人尋問の結果によれば、坂出木材産業株式会社から三四万二〇〇〇円、高徳YKK産業株式会社から一四〇万五三二八円、株式会社横山商店から二万四五三〇円の各仕入をしたこと、期首在庫高が七八万七六八〇円、期末在庫高が一〇三万円であることが認められる。
2 次に被控訴人は丸福木材有限会社からの仕入代金二〇万三〇〇〇円を販売原価に計上すべきであると主張するので判断する。
前記(一)3(1)に認定した事実と前掲甲第四号証の一ないし三、乙第三五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同第三六号証、原審証人富吉右一の証言、原審における被控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、被控訴人は昭和四四年一二月二三日丸福木材有限会社との間で、他の二名と共同で木材を買受ける旨の仕入契約を締結し、右木材のうち被控訴人仕入分二〇万三〇〇〇円の木材は翌四五年一月に納入され、その代金支払いも同年一月以降に振出した手形によってなされたこと、前記期首在庫高の中に右仕入分は含まれていないことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
右に認定したところによると、右仕入分は物品の納入された昭和四五年一月に債務が確定したというべきであるから、右仕入代金二〇万三〇〇〇円は昭和四五年販売原価として計上すべきものである(この点に関し、昭和四四年中に木材の納入がなされたことを前提とする控訴人の主張は採用しない)。
(三) 一般経費(四二万五八七四円)
被控訴人が昭和四五年中に一般経費として租税公課二万四八四〇円、水道光熱費五万〇七五一円、接待交際費二万一〇〇〇円、損害保険料七〇五〇円、修繕費一万九〇〇〇円、消耗品費一七万八六八〇円、雑費六一二〇円をそれぞれ支出したことは前記(一)2(2)に認定のとおりであり、前掲甲第一号証、乙第一号証の一ないし五、並びに弁論の全趣旨によれば通信費が一万八一一三円、減価償却費(建物以外)が一〇万〇三二〇円であることが認められる。
(四) 特別経費(四四万〇八五九円)
1 借入金利子(五万七九七四円)
被控訴人が昭和四五年中に国民金融公庫借入金の利息三万三八〇四円、豊浜支店貸付金利息二万〇三八一円、豊浜農協手形貸付利息三二一二円をそれぞれ支払ったことは前記(一)2(5)に認定のとおりであり、前掲乙第一号証の三、四によると豊浜支店当座借越分利息五七七円が支払われていることが認められる。
2 建物の減価償却費(四万〇四五五円)
原本の存在並びに成立に争いのない乙第二六号証によれば被控訴人は昭和四三年に鉄骨スレート葺作業場(床面積一三五平方メートル)を新築し、その取得価額は一五五万円であったことが認められ、右建物の構造、規模によると、その耐用年数は三五年が相当であると考えられるから、これにより控訴人主張の計算方法によって償却額を算定すると四万〇四五五円となる。
3 地代家賃(一万五五三〇円)
昭和四五年分地代が一万五五三〇円であることは前記(一)2(3)に認定のとおりである。
4 外注費(三二万六九〇〇円)
外注費が三二万六九〇〇円であることは前記(一)2(4)に認定のとおりである。
(五) (一)ないし(四)に認定したところによると、被控訴人の昭和四五年分事業所得額は次の数式によって示すとおり一〇七万九三三五円となり、その詳細は別表の認定額欄記載のとおりである(なお、別表には対照の便宜上控訴人の主張額をも掲げた)。
(売上金額) (販売原価) (一般経費) (特別経費)
四四八万九七二三円-(二五四万三六五五円+四二万五八七四円+四四万〇八五九円)
(事業所得金額)
=一〇七万九三三五円
四、三記載の推計の合理性についての当裁判所の認定判断は原判決三三枚目表一行目から同八行目迄の記載と同一であるからこれを引用する。
五、以上のとおり被控訴人の昭和四五年分事業所得は一〇七万九三三五円であるところ、控訴人が被控訴人の右事業所得を一一九万九七一〇円とし、税額を六万一七〇〇円とする旨の更正処分及び右所得金額に対応する過少申告加算税を三〇〇〇円とする旨の賦課決定処分をしたことは前記のとおり当事者間に争いがないから、右更正処分は前記事業所得金額一〇七万九三三五円を超える限度において、また右過少申告加算税の賦課決定処分は右事業所得金額に対応する過少申告加算税額を超える限度において違法であるから右の部分に限り取り消しを免れないというべきである。
よって、被控訴人の本訴請求は右の限度でこれを認容し、その余は失当として棄却すべきものであるから、本件更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分の全部を取り消した原判決は本判決主文第二、第三項のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 今村三郎 裁判官 福家寛 裁判官下村幸雄は転任につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 今村三郎)
別表